下草の扱い方

1.下草の役割
庭木などの根元近くに植えて趣を添える物で、盛装した和服のすそ模様に例えられる。庭木以外にも、庭石、池周り、外燈なども下草を配することでお互いを引き立てる。
点としてポイントに植える方法、線として用いる方法、面として用いる方法などがある。面として用いる場合は地被植物的な扱いになる。

2.和風向きと洋風向き
下草は、特にシダ類の仲間が多く取り入れられており半日陰を好むものが多い。
花ものとしては、シュウカイドウ、シュウメイギク、イワタバコ、ヒガンバナ、スイセンなどに限られてくる。
和洋折衷の庭園が多くなっているので、あまり拘ることはないが、建物や構成物に調和していることが大切。
和風庭園では、わび・寂びなどの雰囲気から、あまり集団的には扱わないほうがよい。石つきとしては添景に、根締めであれば主木に対するポイントとして、鉢前やつくばい、僧都などは調和を考えて配植する。
洋風庭園では水辺には水草とあったものを、園路には道幅やこう配、見通しなどを考えて線としての植栽に工夫し、前景、背景などには集団として扱い色彩や配列を工夫する。
特に、季節感を演出するように、新緑、盛夏、紅葉と、樹木との調和を考える。

主な落葉性下草とその栽培

アマドコロ   (ユリ科)

1)特徴
落葉樹林の下草によい。日本各地、東アジアにかけて分布している宿根草。
スズラン状の花が初夏に咲き、秋に丸形黒色の実をつける。和洋いずれの庭園にも向く。斑入り葉も各種あるほか、仲間が大変多く、オオアマドコロ、エダウチアマドコロ、ヒメアマドコロ、ヤマアマドコロ、セイヨウアマドコロなどがある。似たものには、ワニグチソウ、ナルコユリ、ホウチャクソウ、タケシマラン、ユキザサ、チゴユリなどがある。
花は茶花に、斑入り葉は切り花にと、花壇や下草以外にも用途が広く、地下茎は薬用、新葉は山菜としても活用される。

2)栽培のポイント
排水の良い所と、弱光下を好む。強光下では葉焼けをおこす。
5〜6年以上同じ場所での栽培は忌地を起こすので移植が必要。秋に株分けと同時に行う。病害虫は少ないが、斑点病の予防にマンネブダイセンM水和剤を散布する。施肥は生育期間中に化成肥料か、有機質肥料を少量施す。
繁殖は実生もできるが発芽に2年かかるので秋の株分けがよい。

イカリソウ   (メギ科)

1)特徴
東アジアに広く自生している。暖地ではバイカ系が、寒地ではキバナ系がみられる。多くは落葉性であるが、常緑系統もある。花が美しく、育てやすいところから各地で見られる。草丈は20〜30cmで、民間薬としても有名。

2)栽培のポイント
半日陰地で腐植質に富んだ用土が最適。浅植えにする。
排水を良くすると繁茂する。寒暑にも強いが、高山性のものはやや育ちにくい。
落葉性種は冬、枯れた地上部を刈り取り、寒地では防寒する。常緑性種は冬でもそのままでよい。病害虫の発生はほとんどない。
生育期間中に有機質肥料や配合肥料を施すが、直接根に触れないように注意する。繁殖は株分けが一般的で、春の芽が動く前か秋に行う。実生も可能だが、熟すとすぐに落果してしまうので、採取は難しい。

イワヒバ   (イワヒバ科)

1)特徴
アジアの東部から南部、日本にも自生が見られる。草丈20cmのシダ類。
常緑性だが冬季は地上部の葉が枯れたように縮れたまま越冬する。
古典植物として多くの園芸品種があるが、庭植としては普通種がよい。

2)栽培のポイント
排水がよく、保水も充分な場所に植え付ける。夏の灌水は充分に行うが、冬の休眠期間中は中止する。
灌水以外は管理面で手をかける必要がない。
通風と日照がよければ特に病害虫の発生もないが、強光下は避ける。
肥料は生育期間中にハイポネックスやプラントフードなどの化学肥料をごく薄い液肥として施す。
繁殖は挿し芽で行う。時期は5〜6月が適期。
活着率はよいが、成長には年月がかかる。シダの仲間で自生地では胞子で繁殖する。

キキョウ   (キキョウ科)

1)特徴
日本、中国に分布する宿根草で、秋の七草として有名。根茎は漢方薬に利用されるが、少量であれば山菜としても楽しめる。
花は美しく、花色は数種類あり、八重咲き種もある。下草以外に、切り花、花壇、鉢植えにも利用される。

2)栽培のポイント
日当り地のやや粘質土でよく育つ。年間植え替えの必要がなく、肥培管理でよく咲く。早咲き種は開花後、地上部を切り取ると二度咲きしてくれる。
ヨトウムシ、ネキリムシ、アブラムシによるバイラス病の害があり、べと病、腐敗病、斑点病もよく発生するので、殺虫剤による早期駆除と殺菌剤による予防に努める。
繁殖は実生、挿し芽による。実生は発芽率がよく、一度に多量にふやせる。挿し芽は5〜6月に行う。株分けもできるが根が太いので手間がかかる。

その他の落葉性下草類

①ミョウガ   (ショウガ科)
野菜として扱われるが、斑入り葉種は美しく夏向きの下草。

②キク   (キク科)
下草用には丈夫な放任してもよく育つ小菊系統が向く。野生の各種ノギク系も品がある。

③スイセン   (ヒガンバナ科)
和風庭園には房咲き種などの小輪咲き系統が向く。洋風庭園には大輪咲きに近いラッパ咲き系統が向く。

④ゼンマイ   (ゼンマイ科)
夏緑性のシダで、湿地でもかなりの乾地でもよく育つので用途が広い。

⑤ハッカ   (シソ科)
香りの良いメグサとして有名。かなりの日当り地向きだが、湿地でもよく育つ。

⑥フキ   (キク科)
春のフキノトウには趣があり、産地によってアキタブキのように大型に育つものがある。斑入り葉種やヨーロッパ産の香りの良い種類(ウインター・ヘリオトロープ)もよく育ち、地被植物としても利用できる。

⑦ヒガンバナ   (ヒガンバナ科)
日本人には嫌われているが、海外では人気がある。黄花や白花種などもあり、近縁種にキツネノカミソリ、ナツズイセンなどがある。

⑧クサソテツ   (ウラボシ科)
春の山菜としてコゴミの名で有名。和風庭園によい。肥培するとかなり大型化する。

⑨ニリンソウ   (キンポウゲ科)
小型の宿根草。群植にするとよく、春先の白花がよく映える。

⑩ユリ   (ユリ科)
野生品は栽培が難しいので育てやすい園芸品種を用いる。
環境により品種を選ぶ必要がある。

⑪マイヅルソウ   (ユリ科)
ごく小型の宿根草で、山地近くでよく育つ。

⑫アヤメ   (アヤメ科)
草姿のすらっとしたものが多く、池の縁などに向く。乾地にも強く、種類が多い。

⑬スミレ   (スミレ科)
小型だが、春の趣を演出するには欠かせない。忌地を起こしやすいので、3〜4年ごとに場所を変える必要がある。
洋種のバイオレットもよい。

⑭オミナエシ   (オミナエシ科)
黄花だが、同じ仲間のオトコエシ(白花)のほうが公害に強く育てやすい。

主な常緑性下草とその栽培

アフリカホウセンカ   (ツリフネソウ科)

1)特徴
インパチエンスとも通称され、南アフリカ、インド、マレーに分布している非耐寒性の春まき一年草。
花が美しく、夏の下草として盛んに使用される。花色も赤系、桃、白とあり、好みに応じて使い分ける。
花に金属光沢があるので、半日陰地を明るくする効果もある。
冬は加温設備があれば越冬も可能で、吊り鉢、花壇にも向く。

2)栽培のポイント
半日陰地向きで、午前中の日が充分にあたる場所が適している。
1㎡当たり7〜8株植えがよい。霜が降りる頃まで長期間花が楽しめる。
肥料は、追肥としてはチッ素分が多すぎると花が咲かなくなるので、リン酸、カリ分を重点に施す。
灌水は控えめに、やや乾かし気味に育てると草丈がつまってよい。
用土には腐葉土や、ピート、バークなどを混ぜておく。
夏に乾燥するとアカダニが発生しやすくなるので殺ダニ剤(ニッソランなど)で早期駆除が必要。結実させると親株が弱るので花がら摘みなどをまめに行う。
繁殖は実生だが、挿し芽も可能。
実生は4〜5月が適期で、発芽気温は20〜25℃なので、かなり高温期にになってからまくとよい。
ピートバンやバーミキュライトなどの専用の用土にまき、覆土しておく。
発芽には2〜3週間を要するのでその期間は乾燥をさけ灌水をおこなう。
高性種(草丈50cm以上)から、わい性種まであるので、それぞれの目的に応じて種を入手する。
挿し芽は気温が高ければいつでも行える。活着率も高く、すぐに発根する。
湿度の高い夏は腐敗しやすい。
斑入り葉種の繁殖は挿し芽による。

エビネ   (ラン科)

1)特徴
アジアの各地、日本にも各種が自生している。
花色、開花期に変化が多くそれぞれの適地に分布しているので植え場所や種類を選ぶ。
日本に自生しているものには春咲きではエビネ(ジエビネ)、黄花のキエビネ、半開性のキリシマエビネ、山地性のサルメネビネ、香りの良いニオイエビネ、夏咲きではナツエビネ、多花性のツルランなどがあり、これらの交雑種も多い。

2)栽培のポイント
半日陰地で、夏の暑さに注意して栽培する。
台湾産や外国からのものには、冬季、加温が必要となるものがある。
寒地向きにはキエビネなどだが、排水をよくし、腐植質を多めにした培養土に浅植えする。
肥料は少なめでよく、移植は2〜3年に1回で、春に行う。
花後は花がらを摘むようにする。環境が良ければ病害虫の発生もなくよく育つ。
カイガラムシやアブラムシに害されることがあるので早期に駆除する。
繁殖は株分けによる。春の植替え時にバルブ(偽球茎)を切り離して植え付ける。

オモト   (ユリ科)

1)特徴
古典植物として鉢植えで鑑賞されているが、これとは別に育てやすい切り葉用の種類が下草としては適している。また、大葉と小葉、薄葉と厚葉などの区別もされており、下草には大葉、薄葉が適している。中国から日本に分布が見られ、年間の緑葉、秋から春にかけての赤熟果もよい。
薬用効果があるが、フクジュソウ、スズランなどと同様に家庭薬として使用するには危険。

2)栽培のポイント
土質はやや石灰岩質を好むが、環境が合うとよく育つ。
チッ素過多や、日照・通風が悪いと病害虫が発生しやすくなる。害虫ではカイガラムシ、スリップス、クロハムシ、カキゾウムシ類が発生するのでマラソン乳剤などで防除する。病気では赤星病や黒斑病、軟腐病などが発生するのでマンネブダイセンM水和剤で防除する。
繁殖は根茎(イモ)の芋吹き法と株分けにより、5月が適期。9月も可能で、浅植えにする。まれに実生も可能。

その他の常緑性下草類

①シュンラン   (ラン科)
和風庭園向き。

②ツワブキ   (キク科)
花の少ない秋に咲く黄花が美しく、厚葉の照葉も年間楽しめる。

③ベニシダ   (ウラボシ科)
シダの仲間で芽出しが赤く美しく、半日陰地向き。

④ハマユウ   (ヒガンバナ科)
日本産は暖地向きだが、インドハマユウは順応性があり、雪中でも強い。

⑤ヤブソテツ   (ウラボシ科)
シダの仲間で種類が多く丈夫で各地に自生している。

⑥ハラン   (ユリ科)
常緑葉は食物を包むのに用いられ、家庭向き。

⑦トクサ   (トクサ科)
シダの仲間で、ツクシを大きくした感じ。茶庭には欠かせない。